<デモンストレイト>


 黒い翼で飛んでゆけ。
 黒いフードに鋭い歯。
 蒼白の肌にブラッド・ペイント。
 地を食む獣は月下を駆ける。
 眼の中に、紅い月。
 牙打ち鳴らす原初の音楽。
 合唱者は聖歌を唄い、
 野蛮なそいつは新月に轟く。
 暴威の唄は血を媒介に、
 哀悼の情はどこにもない。
 黒い体は行方を知らず、
 牙の歌は人里に響く。






<マトリオーシカの無限回廊>


 寝ても覚めても同じ風景。
 フタを開けば違うデザイン。
 開けれど開けれど底はない。
 多種多様な服を着て、何も変わらぬ日々を生きる。
 フタは果てしなくあって、
 ベッドはいつも同じモノ。
 しまいこもうにも、多すぎて整理できない。
 この先ずっと続いていくこのループに、
 終わりはきっとどこにもない。
 せめて願うだけ。
 イヤだったある一日のデザインが、夢であるように。






<ヴェルベット・ブルー>


 深い、藍色の海。
 絹のような手触りの水を握り潰す。
 穢れきった裸身は清められ、
 罪の夢を僕は忘れる。
 ビロードの衣を水に融かし、
 肌に張り付け姿を隠す。
 明日にはもう海の底。
 静かな静かな世界で、僕は眠りにつけるだろう。






<シニカルリヴォルバー>


 からから。歯車は回る。
 私たちの営みを嘲笑っているのか。
 正確なリズムがひどくうるさい。
 くるくる。歯車は回る。
 決まりきったルーティンワーク。
 壊れられない日常のひとコマ。
 止まることは許されず、
 過去を思う時間はない。
 からから。歯車は回る。
 変わり映えしない回転数。
 吐き気がする。
 だけど私は知ってしまった。
 変わらないこと。
 歯車にとっては、それが最良の幸せだって。

     ――Nameless Notions / chap. 1 Prime Links, Ordinary






<ブルー・ダイアグラム>


 君が知らない間に大人は子供の絵図を書く。
 絵具は自由。けれど、子供はレールの上に。
 逃げられない夜の季節は醒めない夢のよう。
 そして逃げ出した後には褪めない夢のよう。

 或る人はこの作業をゲームだと言う。
 イーゼルの上に描き終えた油絵。
 好み。趣味。進路。交友。特技。
 全てが誰かのカスタムメイド。
 或る人は言う。
 「お前に意志はあったのか?」
 僕は、こんな奴に従うつもりなんてない。
 だから逃げた。
 褪めない興奮の中、片思いの子の手を取って。

 そしていつか、もう一度あいつに会ったら。
 さあ、もうためらいはいらない。
 キャンパスに描かれた、
 お前の絵図をぶち壊せ。

     ――Nameless Notions / chap. 2 Blue Diagram






<フェイク>


 愛を夢に見た。
 望んでいたものじゃなかった。
 愛を現に追った。
 理想とは遠く離れたカサブタになった。
 夜の帳の中、あの人に聞いた。
 「君の愛はどんなもの?」
 彼女は何も言わず。
 シャツとガウンを白い肌の上に重ねた。
 隣の部屋から、軋むベッドの音がする。
 ルージュを引いた彼女の唇が、にいと歪んだ。
 それだけで分かった。
 僕は、分かっていない。
 一人、天井の染みを数えて思う。
 僕の愛は、ただの自己満足だ――。
 翌朝。
 残っていたのは彼女のルージュと。
 もつれた恋心に、壊れた愛の幻想図。

     ――Nameless Notions / chap. 3 false-love-affair






<リディーマーズ・リグレット>


 誰もが夢を追いかけている。
 誰もが愛を求めている。
 だけれど誰もが人を傷つける。
 だけれど誰もが人を壊してく。
 そして居場所を失い、旅立ち、
 罪を負って還ってゆく。
 そして誰もが忘れてしまう。
 ボクらのつけた、過去の爪痕。
 つぐなうことも。
 あやまることも失ったボクは。
 せめてこのツメアトを忘れないように。
 この現実で、キミらの分まで生きていく。
 掌には、一つのシンボル。
 握った拳の裏側にひとつ。
 鎖でつないだ、祈りの十字架。

     ――Nameless Notions / chap. 4 Ragnarok Ordeal






<フライ・フォアワード>


 祈り、願い、果てに誓う。
 あなたの腕の中で眠りたい。
 祈り、願い、届かなくても。
 わたしは誓う。
 可能性にあふれる空の下、
 レールを超えて翼<レール>を広げ。
 有限の無限大、その果てを超えよう。
 青空に広がる、虹の色のように、自由に。
 今のわたしの気持ちよ、
 ソラの果てまで飛んでゆけ。

     ――Nameless Notions / Epilogue Prayer, Longing, and Oath





<リザイン>


 お前はどうして呼吸している。
 親にそう言われた。
 聞いたか。ヤツはオレに死ねってよ。
 どうして生きていられるのか、じゃない。
 なんで生きているんだ、だったんだ。
 ああそうか。
 ヤツはオレに免罪符をくれたんだ。
 もういいだろ?
 誰にも愛されず、親からもゴミ扱いされて。
 キッチンナイフを研ぎ澄ます。
 あとは単純。
 ただ、この身体にブチ込むだけさ。
 ああ、ひとつだけ忘れていた。
 親愛なるこのクソッタレな世界へ。

 サヨナラ。
 バイバイ。






<恋詩――月光蝶>


 触れれば崩れる、僕の幻想。
 君はまさに蝶のよう。
 月下、光を浴びて。
 光の表側で生きる純粋なあなた。
 月光、君を包んで。
 その光でできた、穢れなきもの。
 触れられればと願う僕の夢は、
  まるで想いのサンドクラフト。
 君に触れたいと欲しがる僕は、
  崩れるのが怖くて、動けない。
 もしもできるなら。
 光の檻に君を閉じ込め、
 月の光で僕をリライト。

 僕は影で、君は陽。
 月の光すら塗り替える輝かしきもの。
 願わくば。
 君のその笑みで、僕を焼き尽くして。
 そのときに、僕は君と同じになれる。

 わらっていて。
 僕を上書きして。
 そして僕は、閉じ込めるための仮面を投げ捨てられるように。
 まっていて。
 僕を照らし上げて。
 それで僕は、君といっしょにいる「幻創」を棄てられるから。

 夜の夢には月光の蝶。
 僕は触れようと、指を伸ばしてる。







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