「先生、実は……」

 佐藤マシロが、一枚の紙切れを遺して、自らに終止符を打ってから、長い月日が経った。
 彼女を死なせてしまったわたしが、今の仕事に就いているのは、わたしとしてはきっと自然なことなんだと思う。彼女のような子供は、二度と見たくなかったから。
 そう。
 わたしは今、スクールカウンセラーとして働いている。

 わたしは、あの夜に血まみれになって倒れている所を、マシロと一緒に発見されたそうだ。マシロとの違いは、息があるかないか、それだけだった。二人とも制服を血に染めていて、まるでわたしがマシロを殺したかのような状態だったらしい。
 わたしが、遅すぎたのだ。
 あと一日、あと一週間でも早ければ、マシロは死なずに済んだのかもしれない。

 けれどそれは、もう語ることの許されない過去でしかない。

 ifを語ったところで、マシロは生き返るわけじゃない。それは、彼女の最期を看取ったわたしが、一番よく知っている。
 最後の最後で、マシロは自分の殻を、自分から喰い千切った。――自殺という方法で。
 最後の最後で、わたしは自分の殻を、破る事ができなかった。――今も後悔している。
 代わりに、わたしはマシロに殻を破られた。彼女の死が、わたしに生きる目的を与えた、なんて――皮肉な話。助けたいと決意した直後に、彼女は死んで。その彼女のおかげで、今のわたしが在る。

 わたしはもう、迷わない。
 二度とマシロのような子供を、自分の目の前でひどい目に合わせないように、全力を尽くしたい。
 スクールカウンセラーとしてではなく、藍川サヤという一人の人間として。


 ときどき、わたしはあの夜の夢を見る。
 あの光景を忘れる事は決してない。もちろん、マシロのことも。
 けれど、あの光景がある限り、わたしは決して、かつてのように、いじめられている子供を避けることは絶対にない。
 殻を破って、孤独を外に連れ出そう。
 それは、マシロがわたしに教えてくれた、あの憧れた笑顔のなかにいつまでも輝いている。





――――Fin.


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